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筑波大学自然保護寄付講座
 

〈国際自然保護連合におけるインターンシップ〉 
2015年3月より,
スイスのグランにある国際自然保護連合(IUCN)で海外インターンシップに従事しています。IUCNの世界遺産プログラムでは、来る6-7月にドイツのボンで開催される世界遺産委員会に向けた準備として、〈 1. 登録済み案件のモニタリング〉〈 2. 新規推薦案件の評価)が進んでいます。私もここ一か月ほどの間に両方の業務に関わるようになりました。以下に,その様子を紹介したいと思います。

オフィスにて。世界遺産プログラムのチームメンバーと。

少人数で年齢層も若くとてもカジュアルな職場です。

メンバーの出身は、スイス、オランダ、ロシア、ポルトガル等々。



◆ モニタリング:保全状況報告書(State of ConservationSOCReport)の作成

 世界遺産条約締約国が提出した自然・複合遺産の保全状況の報告に基づき、2月からSOC Reportの作成を進めてきましたが、英仏の翻訳の締切りが近づき、終盤戦に入っています。UNESCO世界遺産センターおよび(複合遺産については)ICOMOSとも原稿をやり取りし文面の確定を進めているところです。

 SOC Reportでは、締約国による報告を、過去のSOC Reportや世界遺産委員会決議、外部専門家の意見、メディアの報道などと照合し、保全状況がどの程度改善されているか分析し、世界遺産委員会で採択にかける決議草案を示します。

 レポート作成の流れは、担当者がまとめた原稿を、モニタリングチームのリーダー、世界遺産プログラム長(ディレクター)のチェック・承認を受け、UNESCO世界遺産センターとICOMOSに送ります(IUCNICOMOSが作成した複合遺産の原稿にコメントします)。先方からのコメントを受けて、チーム内でさらに原稿を検討し、場合によっては地域事務所等に正確な状況の確認を行い、上記のやり取りを繰り返して完成させていきます。

 最初のうちは関連する文書を読みあさり、SOC Reportの作られ方や各遺産の状況について勉強しましたが、原稿が仕上がってくると、他のメンバーと同様に原稿の検討、修正に加わるようになりました。提出期限が近く短時間で回答しなければならないこともあり、初めのうちに読み込みをしておいたのが結果的に役立ちました。

 自分の指摘がチームで取り上げられたり、修正文面を提案したり、最終的にSOCReportが少し変わったこともありやりがいを感じます。インターンでも他のメンバーと変わらない関与が求められ、こちらの考えも大切に扱っていただいていると思います。SOC Reportを批判的に検討する点でとても勉強になり、また、専門家や現地住民からの意見書など、外部からは目にできない資料に触れることができたのも貴重でした。

 特に問題のあるケースについては、世界遺産センターとスカイプでの打ち合わせが頻繁に行われます。決議草案の内容やそもそも世界遺産委員会で議題化するか否かなど、意見が異なり、難しい交渉になることもあります。

 締約国との関係を考慮する世界遺産センターに対し、チームの中では、専門的知見に基づいた保護・保全を重視し、条約の政治化を懸念する声が聞かれます。

 世界遺産条約が今後どのような方向に向かっていくのか考えさせられます。

 

IUCN本部全体での新入スタッフ研修の様子。本部スタッフの多くは、expatriatと呼ばれる、世界各国を渡り歩いて学業や仕事をしてきた人々。英語を中心に複数の言語を使いこなし、元の国籍を意識していない場合も多く、日本で人生の大半を過ごしてきた私は珍しい方です。部署や専門、年齢、キャリアの垣根がなく、オープンな組織風土が印象的です。小さな本部なので、建物内のほとんどの人とすぐに顔見知りになります。


◆ 新規推薦案件の評価

 2015年と2016年の二つのサイクルが並行して進んでいます。

(1) 20156-7月の世界遺産委員会で審議する案件

 昨年の間に進められてきた現地調査、推薦書の審査などを経て、IUCNとしての意思決定主体である世界遺産パネル(複数の専門家からなる評議委員会)が検討し、世界遺産委員会への勧告を決定します。

 3月には、世界各地にいるメンバーを電話会談でつないでパネル・ミーティングが二回開かれ、全ての推薦案件に対する勧告内容が確定しました。これを踏まえ、世界遺産委員会で審議の基本資料となる評価報告書の作成が大詰めを迎えており、担当のスタッフとディレクター、外部の専門家が議論を重ねながら慎重に進められています。

(2) 2016年の世界遺産委員会で審議される案件

 2月にパリのUNESCO世界遺産センターにおいて、締約国から提出された世界遺産登録推薦書の受理可否を決定する会議が開催され、私もディレクターに同行して議論を聞くことができました。6月の世界遺産委員会が終わると2016年度の審議案件の評価が本格化しますが、これに備え今後の調査の準備が始まっており、担当業務の一つとして関わっています。締約国への重要な通知書の発送や推薦書のデータ化といった作業に加え、現地に派遣する専門家の選定などのミーティングの結果を資料にまとめ次のステップを促すなど、チームの動きを下支えする役割もいただき、良い経験になっています。

 

 以上のほか現在の大きな仕事として、6月の世界遺産委員会に向かうIUCNの代表団派遣の準備および現地での代表団運営を、担当者として受け持っています。重要事項の連絡や手続きのサポート、宿泊先の手配、共有資料の作成、委員会開催期間中のサイド・イベントの管理等々、様々な仕事が含まれます。世界各地にいる派遣メンバーとのコミュニケーションが大きな部分を占め、にわかにメールでのやり取りが増えました。

 

 インターンシップ開始から二か月ほどが経ちましたが、保全状況の審査も新規推薦案件の評価も、多くの専門家が関わり、科学的、専門的な調査と現地の状況の確実な把握に基づき、膨大な情報を駆使して行われていることがわかりました。世界遺産委員会では、諮問機関のアドバイスが必ずしも採択されるとは限らず、残念ながら異なる決定が行われる傾向にあると言われますが、多くの人々の労力と専門的な知見の結晶であるSOC Reportと評価報告書が、締約国の間でどのように受け止められ、どれだけ委員会の決定に反映されるのか、引き続き追っていきたいと思います。具体的な業務では、様々な仕事を担当として任せていただけるようになり責任も感じますが、ディレクターはじめチームメンバーが温かく見守ってくれるので心強く、落ち着いて仕事を進めていきたいと思っています。



住んでいる街、ジュネーヴ近郊のニヨン市。滞在先のお宅のベランダからも、通勤電車からも、オフィスの窓からもアルプスとモンブランが見えます。観光・レジャーが盛んな地域で、山でのスキー、レマン湖でのボート、古い町並み、多くの音楽や映画のフェスティバル、世界遺産にも登録されているラヴォ―のワイン畑など、狭いエリアに様々な資源が集まっています。


スイスは多言語の国。このエリアはフランス語圏ですが、通りを歩いているとドイツ語やイタリア語など様々な言葉が飛び交います。国際機関や企業の多いジュネーヴが近いため、海外の出身者も多く住んでおり英語も頻繁に使われます。


(博士後期1年 渡辺真奈美 2015年4月)